『午前4時40分の銃声』 の真相 /金田一少年の事件簿
まだ明け切らぬ朝方、一発の銃声が鳴り響いた!
拳銃を押し当てられ心臓を打ち抜かれた美人刑事!
焼けた部屋に住み続けるストーカー!
自分の女に罪をなすりつける元恋人!
被害者からの電話を疎ましく思う新しい恋人!
事件に関連する場所を詳細に調べたはじめは、やがて『真犯人』のトリックを見事に暴き出し、事件は解決となった・・・のだが・・・
この事件は、被害者である雪峯の自殺というコトで解決している。
はじめの推理によると、今回の事件の流れは次のようになる。
●1:ストーカーの部屋が火事になる。
●2:ストーカーを警戒していた雪峯が焼けたストーカーの部屋を見下ろしたとき、自分の部屋と自分を裏切った元恋人(村山)の部屋とが一直線に繋がることを発見し、今回の自殺の方法を思いついた。
●3:自分の部屋から村山の部屋までテグスを引き、
●4:こっそりと作っておいた合い鍵で室内に入り、
●5:机の梁板に通して輪を作り、
●6:始発電車が動き出す直前に自殺し、
●7:テグスのトリックで拳銃と合い鍵を村山の部屋に送り込み、
●8:始発電車がテグスを回収して証拠がなくなる。
と、まあ、こーゆーコトだ。
トコロがだ。
実はそうなってくると、いくつか問題点が出てくるコトになるのだ。
◆問題点1:
そもそも、雪峯はいつから自殺することを考えていたのだろうか?
もともと死ぬ気などなかったのなら、焼けたストーカーの部屋を通して元恋人の部屋が見えたからといって、だから死ぬ気になったのだとは到底思えない。女癖の悪い元恋人を懲らしめるだけなら、他にいくらでも方法があるワケで、ようするにただ単に懲らしめるというコトと自分が死ぬというコトは、根本的に全くの別問題なのだ。
つまり雪峯としては、まず『自殺すること』が先にあったと考えられる。
◆問題点2:
で、そうなってくると、もともと自殺するつもりだった雪峯は、ストーカーの部屋の火事によってたまたま村山に罪を被せる方法を思いついたというコトになる。
人が自殺を決意したそんなタイミングにたまたまその人物に関連する部屋が火事になった?
・・・・・・まあ、100歩譲って、コレはいいとしておこう。
しかし、その焼けこげた部屋を、改修どころか覆いすらせずに、そのまま一週間もほったらかしにしているというのはたまたまとは言えない。何しろ焼けた部屋に雨風が吹き込めば、ストーカーの下の部屋には必ず雨が漏ることになるからだ。
◆問題点3:
テグス程度のモノで拳銃を滑らせた場合、拳銃の重さでかなり "たわむ" ことになるハズなのだ。
つまり、そのために、焼けこげたストーカーの部屋の、線路側の窓の内側で拳銃が止まってしまう可能性が非常に高い、ということ。
◆問題点4:
テグスそのものを "張る" 方法。
物語中の描写を見ていただくと分かると思うが、少なくとも、村山の部屋側から始まって雪峯の部屋にテグスを引くのは基本的に不可能である。
つまり、
●1:雪峯の部屋の窓からテグスを垂らし、
●2:階段を下りて端を持ち、
●3:ストーカーの部屋を通し、
●4:線路を横断し、
●5:村山の部屋のトイレの窓から垂らし、
●6:作っておいた合鍵で室内に入り、
●7:机の下の梁板に結びつける。
と、こういう手順を踏んでテグスを張ったコトになる。
しかし・・・
・・・・・・ストーカーの部屋を通して?
それなら、その時、そのストーカーはドコにいたのだ?!
今回の場合、このストーカーは、『雪峯の部屋の窓側から』 と 『村山のトイレの窓側から』 と、
●雪峯が死んだ後でもなお、
●わざわざ2回も
●わざわざ焼けこげた部屋の中にいる状態
を描写されているのである。
始発電車によって切られるテグスであれば、最終電車によっても切られてしまうハズである。
この『城西電鉄京相線』の終電が何時なのかは分からないが、恐らくは深夜0時くらいまでは走っているだろう。
つまり、深夜0時~午前4時40分までの間にこのテグス張りの作業を行ったコトになるハズなのだが、その時間とゆーのは、ストーカーが最もストーカーらしく 『見上げたガラスの向こうで雪峯が寝ている状態』 なんかを想像して一人ウヒヒと楽しむ時間帯であるはずで、そもそもソレが目的であのアパートを借りているのである。
よーするに、『そんなストーカーが、ストーカーの部屋にテグスを通した時には室内にいなかった』 などということは有り得ないハズなのだ。
また、
・・・・・・合鍵で室内に入り?
この物語の中には、村山にとっての 『つきあった女』 というのは、雪峯の他にもう一人登場している。
言うまでもなく丸谷のコトなのだが、この村山というヤツは、自分のつきあっている女に 『いない間そうじとかさせて・・・』 いるハズで、つまり今回の千葉の館山に出かけている間も丸谷にそうじさせていたハズであり、ようするに雪峯が村山のマンションに入った時には、そこにはかなりの確率で丸谷がいたハズなのである。
にもかかわらず、雪峯はストーカーにも丸谷にも遭遇することなく、無事にテグスを張って自殺できているコトになるのだ。
・たまたまストーカーの部屋が火事になり、
・たまたまその部屋が焼けたままほったらかしになっていて、
・たまたま村山に出かける用事ができた日に、
・たまたまストーカーが部屋にいなくて、
・たまたま丸谷が村山の部屋にいなかった。
・・・・・・?
いくら何でも、ちょっと話がウマすぎるんじゃないか?
それに、
なぜストーカーは、村山のトイレの窓から覗くはじめの方を見てニヤッと笑うようなマネができるのだ?!
◆ストーカーと村山とは基本的に何の関係もないハズなのだから、はじめの覗く窓が村山の部屋であるというコトをストーカーが知っているワケがなく、
◆雪峯がトリックを使ったコトを知らないのであれば、捜査の初期段階で、雪峯の自殺と村山の部屋との関連(自殺につかった拳銃が村山の部屋から発見されたコト)を知っているハズもない。
のである。
よーするに、少なくとも 『このストーカーは雪峯が今回のようなトリックを使って自殺したコトを知っていた』 のである。
で、そうなってくると、上記に挙げた『たまたま』が、全て必然のコトとなってくるのだ。
この事件では、
●雪峯は恋に破れて自殺する気であり、
●丸谷は村山の女癖の悪さに辟易しており、
●ストーカーにとっては村山は恋敵であり、また、自分のモノにならないなら雪峯を殺してしまうコトも考えていた。
のである。
そしてこれら3人が共謀し、それぞれの目的を達成させる方法を考え出したのだ。
まず、村山と付き合っている丸谷が村山の予定や近況を把握する。
村山が部屋を空けそうなタイミングをストーカーに知らせ、火事を起こす。
ストーカーは『自分で責任を持って修復するから』ナドと言って、実際にこのトリックを使う日以外は焼けた部屋に覆いをかけておく。
問題の日の午前4時40分、雪峯が自殺する。
拳銃は、取りあえずはテグスを伝ってストーカーの部屋に辿り着くが、拳銃自体の重さによる "たわみ" で、ストーカーの部屋の線路側の窓の内側で止まってしまう。
それを、室内に控えていたストーカーが、指紋を付けないようにテグスを引き上げて村山の部屋まで送り出す。
自殺した雪峯の部屋が密室となっていたのかどうか、その辺の描写は全くなかったので定かではないのだが、今回の場合、丸谷かストーカーのどちらかが雪峯の部屋で雪峯の自殺を見守り、その上で拳銃を村山の部屋に持って行けば、トリックそのものが不要であったコトは言うまでもない。
トコロが、もし万一、雪峯の部屋から拳銃を持って出てくるところを誰かに目撃されたりすると、それを『自殺するのを見ていただけ』ナドという言い分が通用するハズもなく、殺人犯人になってしまう危険性が極めて高い。
そのため、結局このトリック自体は必要だったのである。
そして、本来であれば、少なくとも丸谷とストーカーは自殺幇助の罪に問われるハズなのだが、見事にそれぞれの目的だけを達成させる完全犯罪を造りだしたのである。
最後に一点だけ付け加えると、実は丸谷は、雪峯が自殺した直後に雪峯の部屋を訪れているのである。そして、あらかじめ用意しておいたスペアキーに雪峯の血痕を付けたのだ。
なお、この場合、万一誰かに目撃されたとすれば、その時はコソコソ逃げたりせずに、テグスだけを切断した上であたかもたまたま死体を発見したかの如く堂々と大声を上げて人を呼び、その場で警察を呼んで 『凶器の拳銃が部屋には残っていない』 コトを警察に確認させれば良いのである。
つまり、丸谷が 『忘れ物を取りに部屋に入りたい』 と言っていたのは、実はこのスペアキーを机の下に落としておくことが目的だったのである。
もともと雪峯は本当に村山を犯人に仕立てて死ぬことが目的だったのであり、村山を懲らしめるだけで殺人犯にまで仕立てるつもりがなかったのは現恋人の丸谷の方だったのだ。
そうでなければ、凶器の拳銃が発見された室内(それも拳銃の真横)に落ちている血痕付きのキーを、鑑識が見落とすワケがない のである。
■『午前4時40分の銃声
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by mystery_DsD | 2012-04-23 11:15 | @過去検